上司に恋しちゃいました
教会の外で最終打ち合わせをした。


お父さんは真面目な顔で黙々と、新郎にあたしを譲り渡す練習を何度もし、

お母さんはベールダウンで行う動作を忘れないようにぶつぶつと呟いていた。


顔の色が真っ青で、あまりの緊張ぶりに、自分のことよりも心配でいたたまらなくなって
しまった。


それでも、教会の鐘の音が響き、この中に待っている人がいると思うと、自然と姿勢が伸びた。


 ついにこの時がやってきたのだ。


一生無理だと思った。鬼の王子が待っていた女性は、あたし以外の誰かだと思って
いた。


それに……あたし達は、誰からも祝福されないと思っていた。


こんな日が来るなんて、あの頃のあたしには想像もできなかった。


想像すら許されない身分だと思っていた。



けれど……。
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