上司に恋しちゃいました
入口近くで列席者に見守られながら、お母さんと向き合った。


あたしが膝を折り少し屈むと、お母さんは震える手でベールを下ろした。


姿勢を正し、再びお母さんと向き合うと、お母さんの瞳がきらりと光った。


ベールが下ろされているので、お母さんの顔はよく見えない。


お母さんは仕事が終わると、そそくさと後ろに下がった。


そして、お父さんが隣に立つ。


お父さんの腕に手をかけ、真紅の絨毯を一歩一歩踏みしめる。


バージンロードによく栄える、長いドレスの裾を引きながら、こうやってお父さんと並んで歩くのは、いつぶりだろうと記憶を探った。



……思い出せなかった。


会話した記憶もほとんどない。


エスコートするお父さんの表情はいつもと変わらず無表情で、一人娘とバージンロードを歩いている感慨深さなど微塵も顔に表さなかった。
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