上司に恋しちゃいました
お父さんがあたしの腕をぐっと引っ張った。


驚いてお父さんを振り返ると、強い眼差しであたしを見つめていた。


力強い手で腕を握られているので、新郎側に行こうにも歩けない。


新郎とお父さんとの間で動けないあたしの様子を見て、周りは何が起こったのかわからず、ざわざわと騒ぎ出した。


『離して』と目で訴えかけるも、お父さんは頑として動かない。


鬼の王子も司祭も困った顔でうろたえ始めた。


いつの間にか最前列の席に立っていたお母さんも、お父さんの予期せぬ奇行に唖然としていた。


だんだんあたしも本格的に焦り始め、ウェディングプランナーの辻さんが慌ててこちらに向かってくるのが視界の隅に見えた時、



鬼の王子の声が緊迫する教会内に静かに響き渡った。
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