上司に恋しちゃいました
……実家に鬼の王子とふたりで挨拶に行った時は、


鬼の王子が「娘さんを俺にください」と言った時、いつもの無表情顔で頷いて、その後何事もなかったかのように鬼の王子とお酒を飲んでいたのに。


娘を取られるようで寂しいとか、そんなこと今まで微塵も感じさせなかったのに。


こんな土壇場で駄々をこねる子供のような真似をするなんて。



俺は何もしてないぞ、としらばっくれるように平然と前を向くお父さんを、あたしは呆気に取られて眺めていた。


司祭のゴホン、と咳き込む声であたしはハッと我に返った。


慌てて振り向くと、鬼の王子は微笑を浮かべて、礼儀正しく手を差し伸べていた。


その姿にほっとし、差し伸べられた手に指を添える。


王子が姫の手を取り、さらっていくように、鬼の王子は優雅な動きであたしを引き寄せた。
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