上司に恋しちゃいました
夜の海辺
ひと騒動があったものの無事に結婚式が終わり、ホテルに隣接する海辺を鬼の王子とふたりで歩いていた。
太陽はすっかり沈み、星明かりを頼りに砂浜を歩く。
潮気を含んだ風が髪を靡き、静かな海岸は昼の喧騒で疲れ果てたように、ひっそりとたゆたっていた。
「もうウェディングドレスが着られないなんて、寂しいな」
唐突なあたしの言葉に鬼の王子は笑った。
「さっき着たばかりじゃないか」
「何回でも着たいよ。あのシルクのウェディングドレスは厳かな教会に似合ってとても素敵だったけど、違うデザインのウェディングドレスも着てみたい」
「試着の時にいろんな種類のドレスも着てただろう」
「でも本番で使ったのは、カラードレスを含めなければあの一着だけだよ」
「ウェディングドレスもお色直ししたかったってことか?」
「そうじゃなくて……。あんな素敵な服なのに一度しか着る機会がないなんて。購入したとしても家で鏡の前で着るだけだなんて、寂しすぎると思わない?」
そうだなあ、と鬼の王子は困ったように相槌した。