上司に恋しちゃいました
「おかえりなさい!」


満面の笑顔でドアを開けると、スーツ姿の長身で甘い顔立ちの男が一人。


「ただいま」


数時間前までは、オフィス内で眉間に皺を寄せ、誰もが恐れる鬼の上司には逆立ちしても見えない極上の笑顔だった。


玄関の中へ一歩足を進めると、長い手をあたしの腰に絡め身体を引き寄せる。


「ひゃっ!」


片手ですっぽりと鬼の王子の胸に収まったあたしは顔を赤らめた。


「んっ」と言って、鬼の王子は目を瞑る。


「え?」


「え? じゃないでしょ。おかえりなさいのチューは?」


「え、え、えと……」


毎回繰り返されるこの行事。


鬼の王子は、あたしがそういう『ベタで恥ずかしいこと』が苦手だと分かっていてあえて求めてくる。


甘いマスクには似合わないイジワルな性格。

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