上司に恋しちゃいました
「ちわ~っす」
鬼の王子は年季が入った暖簾を慣れた様子で挨拶をしながらくぐった。
雰囲気はいかにもサラリーマンが好きそうな昔風の大衆酒場といったかんじ。
机や椅子は木造で、カウンター席には常連客だと思われるおじさん達が、美味しそうにビールを飲みながら、テレビ中継の野球を見ていた。
「おう久しぶり! なんだ今日はべっぴんさん連れてきて」
カウンターの奥で白い割烹着を着た板前さんが声を掛けてきた。
「バカ、会社の部下だよ」
「こんな綺麗な人が部下だったら会社行くのも楽しいだろ」
ケラケラと笑う様は豪快で親しみが持てた。
まぁね、と鬼の王子は冗談とも本気とも取れる返事をして、店奥のテーブル席に座った。