プライド
しかし三年目のシーズン開幕戦に悲劇は起きた。
 

その二日前、僕たちはやはりパブにいた。


「いよいよだな、サイモン」


「ああ、今シーズンは自分でも期待しているんだ。きっとやってやるよ。そのための準備もきちんとできたし20ゴールを決めてみせる。そして何よりも必ず代表入りしてやる。約束するよ」
 
サイモンの表情からは自信が漲っていた。

そんな彼を見ていると僕も期待せずにはいられなかった。

サイモンはきっとやってくれる。

その思いに疑う余地はなかった。
 

アストンビラをホームに迎えての開幕戦、サイモンは順当にスターティング・メンバーに選ばれた。

背番号も昨シーズンまでの23から9に変わり首脳陣の期待をうかがわせた。

その勇姿を見るため僕もスタンドまで足を運んだ。
約36000人収容のスタジアム、ホワイト・ハート・レーンはほぼ満員に埋まり、試合開始前から熱狂で包まれていた。
 
試合は前半開始早々5分にアストンビラに先制されて苦しい展開となった。

トッテナムも何とかサイモンともう一人のフォワード、イアン・チャプローにボールを集めようとするが、2人にはなかなかボールが渡らなかった。

ようやくチャンスが訪れたのは前半40分を過ぎた頃だった。

右サイドからドリブルで駆け上がった中盤の選手から、サイモンに向けてのクロスが高く蹴り上げられた。


サッカーはロックンロールだ。


そう言っていた彼の魂は迷わずシュートを選択し、ボールに向かって一直線にダッシュし、跳んだ。

二人の相手ディフェンダーの選手も一緒に跳んだ。

一瞬早くサイモンの頭がボールを捕らえた。

が、しかしボールは無情にも枠を外れゴール・バーの上を越えていった。



そして、それは同時にサイモンと僕の夢も軌道から大きく外れてしまう結果となった。

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