プライド
退院してからも地道にリハビリを続け、ようやく軽くならボールを蹴ってもいいと医師から許可が下りると、サイモンはその相手に僕を指名してくれた。

僕たちは近所のグランドに行くと、軽いパス交換を行った。


「ボールを蹴ることがこんなに楽しいなんてな」
 
サイモンはまるで子供のように無邪気な笑顔でそう言った。


「オレも嬉しいよ。今日は記念すべき日だ」
 
きっと僕も同じような笑顔をしていたと思う。
 

しばらくパス交換を続けた後、帰り際サイモンが最後に、と言ってゴールの方に歩み始めるとペナルティー・キックの位置にボールをセットした。

そして鋭い視線をゴールに向けると、フーと息を吐き、実況を始めた


「さあ、ワールド・カップ決勝戦、イングランド対ブラジルもいよいよ大詰め、0対0のまま後半ロス・タイム、ついにイングランドがPKのチャンスを得ました。キッカーはもちろんこの人、イングランド代表エース・ストライカー、サイモン・パーカーです」
 

サイモンはゆっくりとボールから5、6歩後退した。


「審判の笛が鳴った」
 
サイモンはそう言いながらボールに向かって走り出しシュートした。

ボールはコロコロとゴールに向かって転がった。


「ゴォーール、そして同時に試合終了の笛。やりました、イングランド見事優勝です。二度目のワールド・カップを制覇しました。勝利をもたらしたのはこの人、サイモン・パーカーです」
 

サイモンは目を閉じ、両手を握り締め空に向かって突き上げた。

夕陽がその姿を赤く綺麗に照らした。

ここは僕たちのほかには誰もいないただのグランドだったが、僕には彼が代表のユニフォームを着ているのがしっかりと見え、彼を祝福する大歓声がはっきりと聞こえた。

何秒間かそうした後、サイモンは深く一つ息を吐くと両手を下ろし僕に向かって微笑んだ。


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