君の瞳‐ヒトミノオク‐



「礼央、さっさと上がれよ」

「えー」

「えーじゃなくて、閉めるぞ」

「ちっ…りょーかい」


 大人しくプールから出る。

 孝平、怒らせたらうるさいんだよね。


「早坂も、付き合わせて悪いな」

「いいえー、それじゃ僕はこれでー」

「また明日ねー」


 手を振れば、振り返してくれた。

 んー、可愛い奴だなぁ。

 後輩っていいよね、うん。


「早く帰るぞ」

「んー」

「…緊張してんのか?」

「はは、かもね」


 一応あたしも人間ですから。

 …明日、もしダメだったら…県大も行けないわけで。

 そしたらもちろん関東も全国も行けなくなる。

 来年だってあるけど、人間いつ死ぬかわかんないし。

 つまりやれるとこまで全力でやんなきゃってことだからさ。

 珍しく緊張してるんですよ。


「大丈夫だって」


 孝平に頭を撫でられる。

 低体温だからか少し冷たい手。


「礼央だろ」

「…それ応援?」


 苦笑するしかないじゃん…。

 あたしだから、…負けないって?

 そーね、うん…当たり前だね。



< 54 / 91 >

この作品をシェア

pagetop