空唄 ~君に贈る愛のうた~
高い建物があまりない街なので、その丘からの景色は全体を見渡せる。

吹く風が気持ちよくて。

目を瞑って手を広げて立つと、なんだか空を飛んでる気分になった。

すぅ~、っと大きく息を吸う。



《あなたに伝えたい
ことがあったの
さよならの前に
届けたかった
だからこの場所で
ありがとうの言葉
大空に向けて 今》



―あのね、お兄ちゃん。

私なりたいものができたんだよ。

人の心に少しでも残る歌を歌えるように、なりたいんだ。

ねぇ、聞こえた?

お兄ちゃんへ贈る私の唄。

私がんばるから。

どうかどうか、見ててください。




「花音ーっ、そろそろ帰るわよ~」

「はーい」


由紀恵の声に返事をして、振り返ろうとした時


[かのん……]


「えっ?」


不意に誰かに呼ばれた気がした。

振り向いてもそこには誰もいない。

途端に胸がざわざわと騒ぎはじめた。

止まらないそれは、ただ漠然と不安を運んできた。


―何っ、これ……





遥に逢いたい――




何故だかわからないけど、そう思った。
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