空唄 ~君に贈る愛のうた~
「か、の……んっ……」


掠れた声が、自分の名前を呼ぶ。


「何っ、お兄ちゃん?」


ゆっくり頭をこちらに向けようとするだけで、お腹からの出血がひどくなる。


「いや、お兄ちゃんっ、動かないでっ!!」


そう叫んで、お兄ちゃんの手の上から自分の手を重ねる。

これ以上血がでないように。

なんの足しにもならないのはわかっていた。

けれどその時の私は、少しでもお兄ちゃんの命をもたせようと必死だったんだ。


「かの、ん……」


もう一度、苦しそうに振り絞って名前を呼ぶ。


「うん、何?花音はここだよ、お兄ちゃんのそばにいるよ」


お兄ちゃんは視点のあわない顔をこちらに向けて、淡く微笑んだ。

たぶん、もう目もあまり見えてなかったんだと思う。


「かのんっ、泣くなよ……」


お兄ちゃんの手が力なく私を包む。

いつの間にか私の顔は、涙でぐしょぐしょになっていた。
< 70 / 141 >

この作品をシェア

pagetop