空唄 ~君に贈る愛のうた~
「でね、賢司の笑顔ほんっとかわいいんだ」


歩美の好きな人の名前は、賢司と言うらしい。

いつもはクールな歩美をここまで変えちゃうなんて、恋ってもんは大したものだ。


「って、あたしが喋ってばっかだし」

「全然いいよ~。むしろたのしいしっ」

「よくないぃ。花音は最近どうなの?」


電話越しでもわかる、意地悪そうな声で聞いてくる歩美。


「どうって……」

「好きな人、できた?」

「えっ、あぁー……うん――」


曖昧な言葉しか返せなかった。

好きな人はできた。

今まで生きてきて、はじめての恋。

お兄ちゃんや家族、友だちとは違くて
抑えられない程の誰かを想う気持ち。

けど、相手は幽霊。

ちゃんと触れられるし、キスだって温かかったのに
生きてないんだよ、死んでるんだよ。

そんなことを言っても、信じてもらえないんじゃないかな?って思った。

私だって信じない。

ありえないって……



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