初恋は雨
だってこんなに
楽しいこと
他にない。
私は絶対歌手として
デビューしてみせる。
これが私の夢。
「はやいとこスタジオ
入っちゃお…」
私は傘をさしながら
足を早めた。
スタジオ、といったが
実際テレビ局のような
スタジオがある
わけではない。
昔誰かが住んでいた
であろう空き家を
綺麗にして私達は
使っている。
そこなら誰にも
文句言われないし。
まあなにはともあれ
私達はその空き家を
カッコつけて
スタジオとよんで
いるわけだ。
小道を抜けて
少し広い通りに出る。
下を向きながら
早足で歩いていた
時だった。
ドンッ
「きゃっ」
誰かにぶつかったらしい。
「す、すみませ…」
いいかけて思わず
立ち止まってしまった。
ぶつかった相手は
バス停に立っていた
同い年くらいの
男の子だった。
「…いえ、君こそ大丈夫?」
とても綺麗な瞳で
私を見つめてそう言った。
「だっ大丈夫です…」
「良かった」
男の子は少し微笑んで
バスに乗っていった。
私はしばらく
立ち尽くしていた。
さっきの男の子の顔が
はっきりと頭に
よみがえる。
たぶんハーフだろうか、
透き通るような肌に
灰色の瞳。
少し茶色がかった
癖毛の髪の毛。
とってもカッコ良かった。
これが
私の一目惚れの
瞬間だった。