*ビターチョコレート*

奏side

玄関のドアをあけて、少しでもドキッとしてしまった自分を恨んだ




教室のあいつとは少し違った雰囲気



いつもよりしっかりとしたメイクとか
少し工夫した髪型とか
制服とは違う新鮮な私服とか





そんなのどうでもいい。





教室では
あの席では
見せないような顔をしていたから





俺の見たことのない顔





そんな表情が向けられているのは俺の兄貴だと気づいた時には俺の中の何かがぐしゃっと潰されていった





リビングのソファに座る二人
テーブルに置いてあるDVD





俺はこのあとのことは大体は想像できる
何故かというと何度も同じような光景を見てきたから






いつもなら何も言わずに家を出る
でもいつものようにできないのは俺のこの気持ちが邪魔をするから






兄貴の部屋に行くあいつの腕を思わず掴んでしまった俺





兄貴と付き合いたいなら今日は何もするな
そんなことを言いたかったわけじゃない






本当はあの部屋に行かせたくなかった。
本当は今ここで俺が抱きしめたかった






こんなにも自分の気持ちが大きくなっていることに気付かされ俺はどうしたらいいのか分からなくなった






困った顔をするあいつを見て俺の手は緩む






俺はそれ以上何も言わずに家を出た









< 122 / 126 >

この作品をシェア

pagetop