私がヒールをぬいだ時
梅雨がくる頃
荷物はもう家に届いているはず


トランクの中は仕事道具と衣類が少し


G市駅に着いた私はタクシーに乗り込んだ


『すいません、S会館の信号右曲がったところまでお願いします』


『はいわかりました〜』のんびりしたオッチャン運転手がタクシーを走らせた


何年か帰ってない間に、コンビニが増えてる!飲食店も!病院まで出来てるじゃない


でも昔からあったコインランドリーと喫茶店は営業してる


『ここらへんでよろしいか?』と運転手がきいてきた


『はい、ここで』と私はタクシーを降りた


S会館には父親がまだ勤めていた。私は先に父親に会いに行った


『お父ちゃん、ただいま。今帰ってきたで』


『なんや、ひかる早いな。夜やと思たわ』


『意外にはよぅついてん。まあしばらくお世話になるわ』


『まあゆっくりおったらええがな…』


会館の事務員さんが私を見て手を振っている


私も笑って手を振った。同じ高校の先輩だ


私は会館を出て、トランクを押して実家にたどり着いた


『お母ちゃん、ただいま!ひかるやで』


と玄関を開けるといきなり柴犬が飛び出してきた


何…これ…こんな犬いつ飼ったのよ


まだ一年も経ってないんじゃないの?


『ひかるちゃん、お帰り。待ってたで。この子可愛いやろ?マツっていうんよ。丸美が拾ってきて、うちに置いてかえってん』


丸美とは私の妹である


『丸ちゃん、商売してるのになんで犬なんて…』


『可愛いからやろ。でも散歩はあの子させにくるから…うちはご飯だけや。なあマツ』


『はあぁ…そうなんや。ようわからんけど家族が増えたわけやな。よろしくな、マツ』と私は頭を撫でた


マツは尻尾を振って私の周りを回った



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