私がヒールをぬいだ時
T−Studio


それが美容室の店名だった


『タカさん、姉ちゃんつれてきたで。頼んどくわ』


『いらっしゃいませ、オーナーの山本タカアキです』


『立花ひかるです。今日はよろしくお願いします』


『じゃあ姉ちゃん、帰るわな。帰りはタクシーで帰りや』


『うん、ありがとうな』


『丸ちゃんのお姉さん、実は初めて違うんですよ』


『そうなんですか?』


『丸ちゃんの結婚式で会ってるんです。俺、くにっちの友達やから』


『そうですか…』


『今日はどうされますか?』


『ショートにしてください。今流行ってるのでもいいし、手入れしやすいように。任せますわ』


『わかりました』


『立花さんは漫画家されてるんですよね、男性雑誌の連載は読んでますよ』

髪にスプレーをかけながら彼は言った


『ありがとうございます』


『東京の美容室って、もっとオシャレなんやろな』


『変わらないですよ。ここもじゅうぶんオシャレですわ』


鏡の私の髪はダンダンと短くなってく


なんとなく悲しくなってきた…あの人が撫でた髪はもう半分しかない


『できましたよ』


鏡の中の私の髪はあごのあたりまでだった


『にあってます。でも悲しい顔は似合ってない』


彼に肩をポンと叩かれた

何かが吹っ切れたような気がした


『ありがとう!すごくすっきりしたわ』


会計をして、私はタクシーを呼ぼうとした


『俺、送ります。ちょうど休憩やから』


『そんなんかまへんよ』


『まあそう言わんといてください』


私はお言葉に甘えて家まで送ってもらった


『ありがとう。すんませんでした』


『いえ、今度サインでもください』


『お安いご用です』


赤のミニクーパは大きな音で走っていった

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