私がヒールをぬいだ時
『こんばんは、お久しぶりです』と私は引き攣りながら笑った


『こんな時間にこんなの買ったらダメやんか、太るよ〜』


と身体をくねらせて言った


さっさと帰れ!と心の中で叫んだ


ひとつひとつの仕草がミュージカル仕立てである


佐々木卓郎、35歳、市役所の職員である。高校卒業して、すぐに飲み会で知り合って一ヶ月ほど付き合った人だ…


始めは満更でもなかったんだけど、一ヶ月で性格諸々いやになって別れた。しかし本人は自分がふってやったと言い張る


どうでもよかった…セックスは下手だし、自分よがり。それにとんでもないケチである


私は買い物を済まして自転車で帰ろうとした


『女の一人歩きは危険や…送ってくよ』と私の耳元で囁く…う〜キモい!

『自転車やから大丈夫やわ!』と私は猛スピードで家に帰った


まだ、つかさのほうがマシである…マシどころか月とスッポンと表してもいいだろう


気分を切り替えて私は仕事に励んだ


ベタも自分で塗らなきゃいけない…部屋にはった洗濯ロープにつけた木の洗濯バサミに原稿を吊していく


今夜は8月分のもやっておくつもりである


途中、東京からもってきた小さな冷蔵庫からビールをとりだす


おにぎりを食べながら、ビールをちびちび飲んだ

その時携帯がなった


【山本です。夜遅くにすみません。寝てたでしょうか?それとも仕事ですか?今丸ちゃんの店なんだけど来られませんよね】


丸美が教えんだろうか


【ごめんなさい、今夜は徹夜で仕上げなきゃいけない仕事なんです。また誘ってやってください】


と断った。山本さんは田舎では中々見れないオシャレで男前だ。この人となら飲みに行って噂たてられても大丈夫かな…なんて思ってしまう
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