私がヒールをぬいだ時
8月、康子ちゃんこと竹内康子は家にやってきた


『竹内康子です、漫画、読んでます!頑張るんでよろしくお願いします』


『康子ちゃんは、こんな仕事は初めて?』


『実は初めてやないんです。大阪時代に友達が同人誌作ってて、よく手伝ってたんです』


『ほな難しい説明はいらんな。とにかく今はベタを綺麗に仕上げてほしいねん。不定期な仕事にはなると思うけど、そこは我慢してな』


『はい、わかりました』


『今日はなんて聞いてた?』


『徹夜やって丸ちゃんいってました』


『イケそう?』


『大丈夫です昼寝してきたんで!』


『ほな…とりあえず、この原稿のチェック入れてるとこ全部ベタいれて。時間はかかってもかまへんから、綺麗に丁寧に入れてな…失敗しても慌てんと、渇くまでまってホワイトや』


『はい、わかりました』


康子ちゃんは小柄ですごく目の大きい子だった。少し安達裕実に似てる


最初だからあまり期待してなかったけど…失敗は少なくて、黙々とベタを塗っていく


この日はやっぱり徹夜で終わったのは朝の6時頃だった


『お疲れ様、どうやった?』


『なんか緊張して目、張り付いてます』


と目薬を入れている


『上出来やよ。慣れたらホワイトも任せるわ』


『ありがとうございます』


その日は自転車で彼女は帰って行った。私は残ったおにぎりを食べて、少し眠った


お昼前起きて顔を洗い、素麺を食べた


『ひかるちゃんはいつもこんな生活送ってたんやな』とお母ちゃんが言った


『そやで。テレビなんかも中々みる暇ないし、ご飯も偏ってたわ〜こっち帰ってきて野菜食べるようになったら肌荒れなくなったわ』


『野菜はとらなあかんで。今日も徹夜か?』


『今日は違うよ。あの子も明日お昼にきて仕事になるやろな』


『今日はM町行って、海のスケッチでもしてくるわ』


『ひかるちゃん、帽子かぶっていきや』


久しぶりに言われた台詞である
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