澁澤雑文店-澁澤わるつ短編集-
「まぁ、そんなこんなでシャクなわけよ」
「なんで?」
「なんでって、あのさ、夢じゃない? 現実じゃないワケ。そんなトコまでつらい現実見せてどうすんのってハナシよ」
「そうねぇ」
「せめて、男前とか仔犬に囲まれる、みたいなそんな景気のいいもんが見たいでしょ!?」
「代々木さんって、男前と仔犬が同列なんだ」
「ちげーよ! さっきのは例、イグザンプル」
「ふーん」
「臼庭君だって、蝶の大群に襲われるより、夜の蝶の大群に襲われる夢がいいでしょ」
「うーん、まぁね」
「気のない返事ねぇ」
会話が途切れると、部屋にはざくざくざくとリズミカルなはさみの音がする。
臼庭君は私の話を耳障りの悪いBGM程度の扱いで聞き流し、私には一瞥もくれず、ただ、その大きな手を黙々と動かしている。
生来、口ばかりが達者で手先の不器用な私は、彼ほどのリズムを刻むことが出来ない。
ちらりと彼の横顔を盗み見た。
会社でも噂の器量良し。
男にしては長いまつげが憎らしい。
社内の女連中は、どうやっても冴えない私が、皆様のアイドルと二人で仕事をしているのが気に入らないらしいが、どうしてどうして、一緒にいたって彼はステキにそっけない。
「なんで?」
「なんでって、あのさ、夢じゃない? 現実じゃないワケ。そんなトコまでつらい現実見せてどうすんのってハナシよ」
「そうねぇ」
「せめて、男前とか仔犬に囲まれる、みたいなそんな景気のいいもんが見たいでしょ!?」
「代々木さんって、男前と仔犬が同列なんだ」
「ちげーよ! さっきのは例、イグザンプル」
「ふーん」
「臼庭君だって、蝶の大群に襲われるより、夜の蝶の大群に襲われる夢がいいでしょ」
「うーん、まぁね」
「気のない返事ねぇ」
会話が途切れると、部屋にはざくざくざくとリズミカルなはさみの音がする。
臼庭君は私の話を耳障りの悪いBGM程度の扱いで聞き流し、私には一瞥もくれず、ただ、その大きな手を黙々と動かしている。
生来、口ばかりが達者で手先の不器用な私は、彼ほどのリズムを刻むことが出来ない。
ちらりと彼の横顔を盗み見た。
会社でも噂の器量良し。
男にしては長いまつげが憎らしい。
社内の女連中は、どうやっても冴えない私が、皆様のアイドルと二人で仕事をしているのが気に入らないらしいが、どうしてどうして、一緒にいたって彼はステキにそっけない。