澁澤雑文店-澁澤わるつ短編集-
世界の終わりはあっさりと訪れた。

突然の宣戦布告で戦争が始まり、ある日、得体の知れない生物兵器が使われた。たくさんの人が死んだ。

しかし、彼らは蘇った。
そして、生きた人々を襲い仲間を次々と増やしていったのだ。

戦争が始まる直前、ずっと好きだった透に、結婚を意識した恋人がいることを知った私は、半ばやけくそ気味に急ごしらえで作られた軍隊に入り、この災禍に遭った。
 
生き抜くためにいろいろなものを失くしていく中で、私は『生きた』透を、廃墟と化した街に見つけた。
 
透は、途方にくれながら、離れ離れになった恋人を探していた。

私達の部隊はかろうじて生き残り、郊外のインテリジェントビルに立てこもった。そしてここを作戦基地とし、他の部隊との合流を狙っていた。
でも私は、他の部隊との合流も、勝ち目のない戦いにいどむことも、どうでもよくなっていた。
 
透がいたから。透が生きていたから。
絶望した世界の中で、私だけが希望を見つけた。
 
たとえ、たまにくる『彼ら』の群れの中に未だに彼が鞠子を探しつづけていても、わたしはきっと勝てると思った。
 
いつか私を愛してくれると、私が彼に希望を見つけたように、彼も私に希望を見つけてくれると、信じていた。
 
・・・・・・信じたかった。
 
透が日がなビルの屋上に出て、双眼鏡で鞠子の姿を探すことも、いつか、いつか、なくなると思っていた。

私は彼の隣りで、同じように双眼鏡を眺めながら、そんな楽天的な気分で見張りを続けた。

(小規模の群れ・・・・・・来るかな?)
 
遠くから見ると、ウジ虫のようにうごめく『彼ら』。少しずつその塊がバリケードに近づきつつあるのを見ながら、彼らを潰していくルーティンワークを、私は頭の中で繰り返す。

(でも、透は私が守るからね)

彼の横顔を確認して、私は上官に報告に行った。

「鞠子・・・・・・」

背中に、彼の声がつき刺さった。
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