澁澤雑文店-澁澤わるつ短編集-
そのときだった。


暗闇の中から、視線を感じた。


じりじりと音が聞こえそうなくらいの、何か強い意志をもった、眼差し。


最初は空き巣か何かだと思い、息を殺して侵入者の気配をうかがった。
でも、わたしは侵入者の入る可能性をすぐ打ち消した。

そもそもワンルームのアパートで、ベッドの横はすぐ窓だ。
入り口は玄関しかない。
わたしは今日、部屋を出ていない。
空き巣が入るにしては、二~三日前からこの部屋にいないと用を成さないわけだ。

誰かに見られている。


それだけは強く感じる。
いつまでも息を止めているわけにもいかないので、わたしは少しづつためている息を吐き出した。

時計の音。抑えたわたしの呼吸音。遠くに聞こえる車の音。暗闇に存在する音は、この三つしかなかった。


そのうち、視線は少しずつ憎しみを放ちだした。


暗闇の中で「自分が見られている」という意識が増幅していく。


気味が悪くて、自然と握り閉めた手にじっとりと汗が浮かぶ。


(電気をつけようか・・・・・・このまま朝を待つか・・・・・・)


視線を浴びながら、何か手を打てないか考えた。

時計を見たら、まだ午前二時。このまま朝を待つのは精神的にも無理そうだ。


結局わたしは、おそるおそる電気のヒモに手を伸ばし、思い切り引っぱった。
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