澁澤雑文店-澁澤わるつ短編集-
妙にしらっちゃけた部屋には、わたし一人だけしかいなかった。

しかし視線は消え去らない。

明かりをつけたら安心したのか勇気が出て、視線の元を探した。


コレハナンダ・・・・・・?


壁に、黒い虫のようなものがついている。


黒いマリモがひらべったくなったようなものが、憎しみをこめてわたしを『見ていた』。


わたしは、こんなものに脅かされていたのかと思うと、無性に腹が立って、手近にあった新聞紙を丸めて、その黒い虫をバシバシ叩いた。
効いているのかどうかわからないが、とにかく壁を叩きつづけた。



どのくらいたったのだろう。

気がついたら、部屋の気配が変わっていた。

視線はなくなり、いつも通りの我が家に戻っていた。
ためしにテレビをつけると、アクション映画が、今、終わろうとしていたところだった。


わたしはそれをみると、やっと肩の荷が下りて、そのまま崩れるように眠ってしまった。
< 8 / 23 >

この作品をシェア

pagetop