【短編集】フルーツ★バスケット
「案外、早かったのね」
「案外って、1時間目のギリギリだったんだよ」
「だからよ。私の予想だと1時間目は帰ってこないと睨んでいたからね」
授業が終わるや否や、美夏刑事の尋問が始まった。
鋭い観察力ですこと。
あたしは、そんなの嫌だけどね。
「でもさ、市川くんの怪我、大したことなくて良かったね」
「ま、ね」
そういえば、そんな設定だったっけ。
彼のあまりの変貌ぶりに忘れてたよ。
「やっぱり、市川くんもマリ先生狙いだったの?」
「違うと思う。先生、いなかったし」
「……へぇ」
あ、もしかして今、余計な一言言ったかな?
「先生もいない危険な密室空間で何もなかった、なんて、言わないわよね?」
「君は、僕たちに何を期待しているの?」
「あ、市川くん。えっと、その……」
いきなりの本人登場で、急にシドロモドロになる美夏。
あたしにとっても、この場は助かったかも。
お願い、余計な事言わないで。
心の中で、通じる筈もないテレパシーを瑞希に送ってみた。