【短編集】フルーツ★バスケット

『こんばんは』

 懐かしい低くて甘い声が耳元に囁いた。


「うん。
 忙しそうだね」

『仕事がバタバタしててね。
 寂しかった?』

 少しね。
 でも、悔しいからそんなこと言わない。

 それよりも


「さっきの、あのメールは何?」

『そんなに、電話でキスされたい?』

 否、そういう事じゃなくて
 意味を知りたい。


『一度だけしかしないから、受話器をしっかり耳に当ててね』

 ジュンに言われ、携帯電話を耳に押し当てるように、くっ付けた。

 一瞬後

『……チュッ』

 不思議な音がした。

 文字でもない。
 肌で感じる事もない。

 なのに、聞こえてきた音に、耳の周りの温度が上昇しているのが自分でも分かる。

 すごく、恥ずかしいんですけど。

 ヤバイ!!

 ヤバすぎるよ。

 今までボーイフレンド、というよりは兄貴的な存在だったジュンを

 急に男として感じて来ちゃったじゃないの!!


『どうしたの?
 いつもの声と違って色っぽくなっちゃって』

「そんなこと、ない、普通だよ」

 普通じゃないのは自分でも分かる。

 けど、認めたくないよ。

 ジュンは、あたしの変化を楽しんでいるかのようにも聞こえる。

 少しずつ、ジュンのSワールドに引き込まれて行った。

 そして、気付いちゃった。

 気付きたくなかった。

 決して、叩いてはいけない扉だったんだよね。

 だけど、
 止められない。


「ジュン、あのね?」



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