【短編集】フルーツ★バスケット

『どうした?
 改まって』

「…………」

 呼び掛けたのは、あたし。

 大きく深呼吸をして、覚悟を決めた。


「あのね」

『うん』

「好きだよ」

 言っちゃった。
 だからって、どうなるわけじゃない。

 って、無言にならないでよ。

 勇気だして言ったのに。


「ごめん。
 今の忘れて」

 さっきまで楽しかった想いは一気に下がり
 悲しくなってきた。

 だって、あたし達は結ばれる事が出来ないから。

 家庭を捨ててまで一緒になんて無理だもの。


『彩菓、俺も。
 好きだよ』

 うん。
 知ってる。

 前に聞いた時より真剣な口調に素直に頷いた。

 神様は意地悪だよ。

 ♪
  どうして、どうして僕達は
  出会ってしまったのだろう
  二度と会えなくなるなら
  ……
 ♪


「今、ユーミンが流れた」

『その曲当てようか。
 リフレインが叫んでるだろ?』

 当たり。

 そういえば、ジュンもユーミンが好きって言ってたっけね。

 本当に。

 どうして、あたし達をもっと早くに出逢わせてくれなかったんだろう。


「ジュンがパートナーだったら良かったな」

『そうだな。
 駆け落ちしよっか』

「……バカ」

 だけど、
 それはあたしの頭にも過った、密かな願望でもあった。

 会いたい。
 今すぐ、抱き締められたい。

 子供もいるのに。

 変だよね?

 未だ見ぬ貴方を好きになるなんて。

 あたしは、文字と音を通して心で話しているから、誰よりも貴方を知っているよ。

 知らないのは、温もりだけ。



< 103 / 157 >

この作品をシェア

pagetop