【短編集】フルーツ★バスケット
淡い想い
──5年前の17歳
あたしは、香苗に誘われて大人のクリスマスパーティーに参加した。
テーブルに並べられた色とりどりの料理。
だけど、皆はワイングラスを片手に和んでいる。
香苗もその輪の中にいる。
──私には無理。
皆と同じ空気に入れない。
なんか、一人だけ大人になれないあたしは、寂しさを感じた。
乾杯にオレンジジュースも情けないよね。
どうしたらいいのか分からず、テーブルに視線を移した。
──あっ!!
見付けちゃった。
私の大好きなクランベリータルト。
鮮やかな紅色をして、丸くて小さな艶があるタルト。
もう、それだけで心がウキウキしてきた。
「クランベリー好きなの?」
「はい♪」
って、誰?
聞き覚えのない声に顔をあげると
上から下まで、真っ赤な衣装を身に纏っている姿の人が目の前に居た。
──サンタクロース?
「初めまして。
俺は、神楽 樹
君は?」
「柊 來留実です」
吸い込まれそうな真っ直ぐな瞳に聞かれて、躊躇する事なく自分も名乗りを上げた。
さっき、自己紹介していた人たちの中には、こんな名前の人いなかった。
「俺と会ったこと、内緒ね」
言うなり、サンタの格好した神楽さんはクランベリータルトを小皿に取り分けてくれて、そのまま、また何処かに行ってしまった。