【短編集】フルーツ★バスケット
どのくらい走ったのか、足跡も聞こえなくなった今、漸く腕を自由にしてくれた。
そこで、初めて彼の顔を見たのかもしれない。
髪は赤毛でツンツン逆立って、男の人にしては小さくて、目がまん丸。
かっこいいというより、可愛いが似合うかな。
まるで、林檎みたい。
「悪かった。
走り回しちまって」
そうよ。
バスに乗り損ねたじゃないのよ!!
でも、奴らから遠ざけてくれて
「ありがとう」
「ところで、何で追われてたんだ?」
「貴方はどうして、見ず知らずの私を連れ出したのですか?」
質問を無視して、逆にあたしから質問を投げ掛けた。
完全に今、目の前の人を信じているわけではない。
だって、送り込まれたスパイかもしれないしね。
「言ったろ。
君を助けたいって」
確かに聞いたけど、納得いかないよ。
「俺はちゃんと答えたよ。
次は君が答える番だな」
お日様みたいに笑うこの人を見ていたら、あたしの心も少しずつ溶けてきた。