【短編集】フルーツ★バスケット

さくらんぼ


『寄り道しよう』だなんて、いきなり言い出した途端、強く手をひかれて颯爽と歩きだした。

 家とは真逆の方向に。

 今から何処に向かうのか、全く検討も付かない。

 なのに、指の先から伝わる温もりに、不思議と穏やかな気持ちでいられた。

 
「ったく、警戒心強いのだけは変わらねぇのな」

 えぇ。朝、貴方という人物を学習させて頂きましたから。

 だけど、ポツリ、と呟いた彼は笑っているのに、何処か淋しそう。

 美夏の前での草食系とも、朝見た肉食系とも違う。

 本当の貴方はいったいどれなの?

 知りたい。
 知りたくない。

 知って仕舞ったらミズキを忘れて仕舞いそうで、怖い。


「朝言ってたミズキって、桜にとってどのくらいの器なの?」

 どのくらい?
 心の広さを測れるなら


「海よりも、空よりも、広くて、大大大好きだよ」

「妬けるなぁ」

 なんか、意外。

 狙った獲物を、瞬時に捕まえそうなのに、妬いたりするんだぁ。

 ふっ、とミズキの話題が出てあたし自信で作った心の壁を崩された気がする。


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