【短編集】フルーツ★バスケット
「早速だけど、君の音、聞かせてくれないかな?」
「今、ですか?」
「そう。決断は急ぐからね」
今って、夜もいい時間、だよね。
近所迷惑とか言われちゃうよ?
「此処は防音設備が整っているから、安心して」
「……はぁ」
部屋の片隅に無造作に置かれた、電子ピアノに
ソッ、と足を運んだ。
何弾いたらいいんだろ?
クラシック、だと退屈かな?
人前で弾くとなると、幼稚な曲も飽きられちゃうよね。
そだ!
折角だから。
あたしの一番のお気に入り。
縦ノリばかりを演奏している彼らには珍しく、しっとりしたバラード調。
たしか、『月の調』って言ってたよね。
あたし、この曲聴いてファンになったんだもの。
だから、自分流だけど、これだけは弾けるようになったんだから。
ゆっくりと鍵盤の上を滑らすように、指を動かしてみた。
流石に、本人たち目の当たりにして弾くのは、緊張するね。