【短編集】フルーツ★バスケット
ミズキと瑞希
「おっはよ~」
今日も元気いっぱいに教室の扉をあけた。
「桜、聞いた? 今日ウチのクラスに転校生来るんだってぇ」
情報通の美夏は、いつになく瞳をキラキラさせて近づいてきた。
「へぇ。どんな人?」
「イケメンだってぇ」
待っていました、と言わんばかりに話始めた。
美夏の『イケメン』という単語に近くにいた女子たちも集まってきた。
「もう、顔見たの?」
「まだよ。でも、名前はGETしたもんねぇ」
「さすがぁ、情報屋は早いねぇ」
「『市川瑞希』だってさ」
ドキンッ!!
『ミズキ』という言葉に反応したあたしの心臓は、落としたのかと思うくらい、大きな音を起てていた。
美夏を囲んで話に花が咲いている。
心にポッカリ穴の空いたあたしを除いて。
……『ミズキ』なんて名前、何処にだっているじゃない。
自分に言い聞かせてみても、ソワソワした心はより一層と踊っている。
期待、しすぎかな?
しばらくして、先生と一緒に入ってきた新しい顔の男の子は、勝ち気な瞳に、誰も寄せ付けないオーラを醸し出していた。
た、確かにイケメンではあるけど、やっぱりミズキじゃないんだね。
三年前に別れたあたしだけの王子様のミズキとは、全くの別人だね。
なんか、急に身体の力、抜けちゃったじゃない。
自分が必要以上に妄想に耽っていたことが可笑しくて、笑わずにいられなくなっていた。