【短編集】フルーツ★バスケット

ミズキと瑞希


「おっはよ~」

 今日も元気いっぱいに教室の扉をあけた。

「桜、聞いた? 今日ウチのクラスに転校生来るんだってぇ」

 情報通の美夏は、いつになく瞳をキラキラさせて近づいてきた。


「へぇ。どんな人?」

「イケメンだってぇ」

 待っていました、と言わんばかりに話始めた。

 美夏の『イケメン』という単語に近くにいた女子たちも集まってきた。


「もう、顔見たの?」

「まだよ。でも、名前はGETしたもんねぇ」

「さすがぁ、情報屋は早いねぇ」

「『市川瑞希』だってさ」


  ドキンッ!!

『ミズキ』という言葉に反応したあたしの心臓は、落としたのかと思うくらい、大きな音を起てていた。

 美夏を囲んで話に花が咲いている。

 心にポッカリ穴の空いたあたしを除いて。

 ……『ミズキ』なんて名前、何処にだっているじゃない。

 自分に言い聞かせてみても、ソワソワした心はより一層と踊っている。

 期待、しすぎかな?



 しばらくして、先生と一緒に入ってきた新しい顔の男の子は、勝ち気な瞳に、誰も寄せ付けないオーラを醸し出していた。

 た、確かにイケメンではあるけど、やっぱりミズキじゃないんだね。

 三年前に別れたあたしだけの王子様のミズキとは、全くの別人だね。

 なんか、急に身体の力、抜けちゃったじゃない。

 自分が必要以上に妄想に耽っていたことが可笑しくて、笑わずにいられなくなっていた。


< 4 / 157 >

この作品をシェア

pagetop