【短編集】フルーツ★バスケット
あっ、ヤバイ。
目が合っちゃった。
あ、貴方の事を笑ったんじゃないのよ。
心の中で弁解しても届くはずもなく。
彼はツカツカ、とあたしの席に向かって一目散に歩いてきた。
来ないでぇぇぇ!!
目を瞑り願うが虚しく、ピタッ、と足音が止まった気配がする。
恐る恐る顔を上げると不敵に笑っているさっきの転校生は、いきなり耳元で囁いてきた。
「俺の彼女にならね?」
「い、嫌ぁぁぁぁ!!」
── ベチンッ!!
あたしは、いきなり近づいてきた瑞希の頬っぺたに一発平手をお見舞いさせていた……らしい。
目の前で赤く腫れた頬を擦っているし。
「日野、いきなり転校生を虐めるんじゃない!!」
「……すみません」
そんなつもりは無かったよ。
だって、コイツが悪いんだから。
あ、あたしの顔にいきなり近づくんだもの。
「先生、保健室行って来ていいですか?」
「一人で行けるか?」
「日野さんが連れて行ってくれるそうです」
「そうか。日野、頼んだぞ」
「……はい」
そんな事一言だって言ってないよ。
けど、怪我させたのはあたしだから、仕方ないかな。
「桜、やったね」
美夏の傍を通ったら小声で嬉しそうに言ってきた。
小さくピースサインまで出して。
美夏、誤解しているよ。
あたしは、この瑞希と破滅する気は無いんだから。
肩をすくめて、教室の後ろの扉から出て行った。
「君、サクラって言うんだね」
「そうよ。日野 桜、覚えなくていいから」
今横にいる彼は、笑いを押し殺してクスクスと肩を揺らしている。
「何?」
失礼しちゃう。人を見て、そんな笑い方するなんて。
「しっかり、覚えさせてもらったよ。日野 桜さん」
あたしが睨み付けたのなんか、気にも留めないのか、カラカラ、と笑って答えていた。