【短編集】フルーツ★バスケット

 誰よりも早く起きて、屋敷の朝を迎える準備に取りかかった。

 食事に関しては、専属の方がいらっしゃるからそれ以外の事を。
 裁縫も苦手だったけど、そんな事も言ってられないから、必然的に上達したかも。

 あたしは、旦那様や結城を特別意識する事もなく、業務だけをこなしていた。

 夜、屋敷中が寝静まってからがあたしの細やかな自由時間。

「見違えたね」

「何がですか?」

「アンタの仕事っぷりさ。
 初めは、使い物にもならなかったっていうのにさ」

 それは禁句ですよ!

 だけど、嬉しいな。
 一番近くであたしを見ている人から、お墨付きの言葉を貰えるなんてね。

 お初さんのお陰なんですよ。

 真っ直ぐな気持ちで、仕事に打ち込めたのは。

「この仕事、楽しいかい?」

「はい!!」

 そりゃさ、自由な時間も休みに友達と会えないのは寂しいよ。

 けど、それ以上に沢山の初めての事に挑戦出来た事が、今のあたしにとって大収穫。

「アンタが継いでくれたら心置無く引退出来るのにさ」

 ──えっ!?

 ポツリ、と呟いたお初さんの言葉が耳に残った。


< 77 / 157 >

この作品をシェア

pagetop