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静けさの中に
「おばさん、これくださいな」
あいよ、という気だるげな返事とともに、しわくちゃのおばさんが金と引き替えに果実を手渡す。
所狭しと敷き詰められた商品、炎天下の中行き交う人々、この辺りでは一番多きな市場だ。
白地に金の刺繍の入ったヴェールを深く被り、布越しに女はその活気を堪能する。
「えへへ、あとでイルにあげよう」
女がひとりごとを嬉しそうに呟いた瞬間、女の素顔が日に曝[さら]された。
「きゃっ」
女のヴェールを何者かが無造作にはぎ取ったのだ。
「見つけたぞ!悪魔め!!!」
日の光にさらされたのは、女の紫の髪に紫の瞳。
声高らかに、女を指差したのは15,6歳の少年だった。
女の姿に市場の一角がどよめきに包まれる。
…みて、あの髪を魔族が街の中に…!!
…みんな離れろ!何をするかわからんぞ……
…衛兵を呼んで来い!何をたくらんでいるか分からん、逃がすな!…
ガツッ
少年が石を投げた。
女、――――アークエンの額から血が流れる。
「っ、違います、私は人間です…この姿は魔力の影響で…!」
大きく被りを振るも、屈強な男たちが自身に詰め寄ってくるのが見えた。
(どうしよう………!)
怯える仕草をとったアークエンに、男たちの中の一人がグッと腕を掴んだ。
「衛兵に突き出してやる、悪魔め…!」
「違いますったら!離して!!」
女の腕を掴む男の屈強な腕に、ヒヤリとした感触が走った。
「――――――――私の連れです。これは何事ですか?」