ill
静かだがよく通る声をしていた。
一瞬民衆はその声に聞き入り、その方へ目を向けた。
若い男が黒くつばの大きい帽子を深く被り、佇んでいた。
女とは対照的に黒いマントを羽織っている。
「オメェも仲間か!?」
ぶんっと腕を振り回し、若い男の帽子をはね飛ばす。
帽子が宙に舞い、男の姿も露わになる。
サラサラとした金の髪、白い肌、うす茶の瞳。
若い男は、表情も変えぬまま胸元から一枚の紙を取り出した。
「…これはグローア王より賜った通行証。」
グローアはこの街の名前であると同時に、国の主の名前。
「……お前が腕を掴んでいるその人は、グローアの病気を治すために呼ばれた治癒能力者[ヒーラー]だ」
周囲が大きくどよめいた。
動揺した屈強な男はアークエンから手を離した。
若い男が叫ぶ。
「アークエン!こっちへ!!」
「イル!」
イルと呼ばれた若い男は帽子を素早く拾い上げ、女の手を引いて人の波を縫って走る。
路地をいくつも曲がり、数十分後、彼らは街から少し離れた丘の上にいた。
「……まったく。ここで待っていて下さいとあれほど言ったのに」
「ごめんねイル、まさかこんなことになるなんて…」
口をへの字に曲げるイルに、アークエンが申し訳なさそうに詫びる。