同じ空の下で
秘密。シークレット。隠し事。明かせぬ事実。
ペンギンが言った言語ははっきりとしていた。それは確かに秘密と言った。僕たちの秘密を知っている? 僕も妻も、口を固く閉ざした。次にペンギンが話し出すのを、辛抱強く待った。
唇が妙に乾いたので、僕は舌先で軽く舐めた。妻はアイスコーヒーに口を付けた。ペンギンは俯いたままだ。
秘密を知っている。何のことだ。大体このペンギンは何なんだ。どこの誰がこんなペンギンを作り出したのだろう。何のために?
愛し合っていますか? 秘密を知っています。このふたつの台詞の繋がりを考えてみた。が、いまいち要点が見えなかった。とにかく今はこの喋るメスペンギンが再び口を開くのを待つしかない。すると、待望のペンギンからの一言は意外な言葉だった。
「お水、貰えますか?」
妻は何も言わずに立ち上がり、食器棚の前で少しだけ迷って一番大きなビールジョッキを取り出すと、そこに冷蔵庫で冷やしたミネラルウォーターを注いだ。机に置かれたそのジョッキを、ペンギンは器用に持ち上げた。取っ手を向こう側に回し、両手で挟み込んで手の先を取っ手の中に入れる。そうやって、半分ぐらいを飲むと再びジョッキを机の上に戻した。
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