同じ空の下で
僕は質問を変えることにした。
「君は、僕たちの仕事のどこまでを知っているんだ?」
するとペンギンは僕を見て答えた。
「どこまでも。あなたたちが行っているのは、先程も言いましたが『記憶の交換』です。まずこれは、日本いや世界でも認められた職業ではない。まして、誰にでも出来る行為ではない。説明は簡単。あなたたちは依頼人に会い、その人が不要となった記憶を聞く。それを特殊な能力を使い、その人から抜き取る。それだけで終わらせれるなら、それに越した事はありませんが、何だって抜けた穴は埋めなければいけない。水族館からペンギンが逃げたら、代わりにイルカを入れなければいけない」
ここでペンギンは一息ついた。次の言葉を探しているのかもしれないし、ただ単に長く話すのは苦手なのかもしれない。僕は息を呑んで続きを待った。
「つまり、その人から取り出した分と同じだけの記憶を新しく注入しなければいけない。それはもちろん、依頼人が望んだ記憶を注入する。だから逆に、依頼人は欲しい記憶を頼むこともある。そうなればその人が持っている特に必要でもない記憶を抜き取り、望んだ記憶を注入する。あなたたちは記憶のストックを持っている。でも」
ペンギンはジョッキを持ち上げ、水を飲んだ。僕たちは辛抱強く、その動きを見守った。
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