同じ空の下で
気付かれぬよう、ゆっくりと近づく。貴田先生は明らかに誰かを探している。だけど、なんでそんなにこそこそと?
僕は迷った。声を掛けるべきかこのままじっと見守るべきか。……やっぱり、貴田先生に嫌がられるようなことはしたくない。僕は貴田先生に声を掛けることにした。
「貴田先生」
何故か僕の声までこっそりと囁く声になる。
小さすぎたのか、まだ僕に気付かない。もう一度。
「貴田……うぐっ」
僕は誰かに口元を手の平で塞がれる。誰だ! なんなんだ!
「お願い、静かにして!」
女の子の声だった。どこかで聞いたことのあるような……。口元を押さえられたまま、貴田先生のいる場所から少しずつ離れていく。
「あの人はあなたを探しているの」
あの人って、貴田先生のことか? それにしてもこの女の子、僕と同じぐらいの年頃のはずなのにやたら力が強い。
「うぐっ、ぐっ、ふっ」
僕は苦しくなってきた。
「あっ、ごめんなさい」
力が緩む。僕はしっかりと息をする。
「静かにしてくれる?」
僕は頷く。彼女の手が離れる。僕は彼女の顔を見る。
< 60 / 157 >

この作品をシェア

pagetop