甘く・深く・愛して・溺れて
『あたし…あまり…事情も知らなくて…。もし、あたしが紗耶香さんの立場なら、きっとすごく不安で…心配で…いっぱい傷ついたと思います…』



あたしが言えるような立場ではないけど、



あたしと紗耶香さんはお互いに会ったことのない、存在をいつも意識していたんだ。



それはあたしにとって、紗耶香さんであり、



紗耶香さんにとって、あたしだった。



『もういいの。私は吹っ切れたわ。今日あなたに会えてよかったのかもしれない…』



紗耶香さんはそう言い終わると、リビングの扉を開けた。



『…さよなら…空人さん、月美さん…』



『あぁ、元気でな…。近々、君のお父さんに事情を説明して、お詫びするつもりだ』



紗耶香さんは小さく頷いて、部屋を出て行った。
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