「いらっしゃい、マークね。スーザンから聞いているわ。入って」
 

エミリーの印象は、僕が想像していたのとは少し違っていた。

ピアノを弾く女性というと、もっとおしとやかで長いスカートを履いているような人物を想像していたのだが、エミリーはとても溌剌としていた。

ベージュのパンツにTシャツの上に古着のシャツを着ていて、両方の袖は肘まで捲られていた。

また、その端整な顔には化粧もされてなく、肩まで掛かる髪は無造作にまとめられていた。

僕はそんなエミリーに一目で好感を持った。

 
エミリーに促され二つあるシングル・ソファーの一つに座ると、僕は自己紹介した。


「あ、あの、はじめまして、マークです・・・」
 

僕の声は緊張で震えていた。

もともとシャイな性格の上に、年上の女性と二人きりで話すことなんてほとんどなかったからだ。

エミリーはニッコリと優しい笑顔を浮かべていた。

しかし、それが逆に僕をさらに緊張させた。

それを察したのかエミリーは立ち上がり、本棚に並べられたたくさんのレコードの中から一枚を取り出しプレーヤーにセットした。


ショパンのピアノ曲が部屋に流れた。

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