次の水曜日からレッスンは始まった。

僕がまったくの未経験な上に、センスのかけらもなかったせいで、エミリーは本当に一から教えなければならなかった。

僕に教えることで初心に戻れると言っていたが、初歩の初歩である鍵盤への指の置き方まで遡って、果たして彼女に何か利点があるのかどうか僕には疑問だった。

しかし、僕にとってはエミリーと過ごす時間は最高に楽しいものだった。
 

レッスンはいつもこんな感じで進められた。

まずエミリーが簡単な曲(「月に照らされた馬車」や「魔法使いの子猫」なんていう曲だ)を選んで手本を示す。

次に僕が楽譜を見ながらそれをまね、練習する。

それを50分ほど続け、きりのいいところで20分ほどのブレイク・タイム。その後また約50分練習する。

そしてレッスンが終わると、僕たちはお茶を飲みながらしばらく話をして過ごした。


「ねえ、エミリーはいつも化粧をしていないけどすることはないの?」


「私だって女だから化粧くらいするときはあるわよ。でもほとんどないわね」とエミリーは笑って答えた。「ほかの女の子が平均20分化粧に時間を使うとしたら、私はその分1日の時間が長いのよ。それって素敵なことだと思わない?」


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