月の影

少しでも

あたしは毎朝2時間もかけて家を出る準備をする



シャワーを浴びて、顔を洗って、歯を磨いて、髪をブローする


そして薄く化粧も


十五も年上なあなたに少しでも、大人だと認めてもらえるように


精一杯背伸びをして、背中にくっつく



少しでも早く大人になりたい



あなたに認めてもらえる女になりたい




「おはよう」


駅で毎朝待ち伏せする


もぅ先生は偶然電車が合うんじゃなく、あたしがわざとこの時間の電車に乗ることを気づいているだろう


「おはよう、先生‥眠たいの?」


ゴツゴツとした男らしい指が細めた目を擦る


「あぁ、遅くまで小テスト作ってたから」

「え、嘘‥今日やるの?」

「そう、抜き打ち」


ははっと笑うその笑顔は悪戯をした子供のように無邪気で、あたしの心を掻きむしる



「昨日の夜、電話無視したでしょう」


「‥そうだっけ」


「どうして?」


「だから‥小テスト作ってたんだよ、携帯には気がつかなかった‥ごめん」



嘘をついてる時のあなたの顔はすぐわかるの



きっと昨日はあの人がきてたのね

隠すのは、少しでもあたしを意識してる証拠なの?



ねぇ、先生
教えてよ
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