揺らぐ幻影

付き合いたい。
好きになってほしい。
夜中に電話をしたい。
二人乗りをして登下校したい。
隣り町にオープンしたカフェでデートをしたい。

カップルおすすめとフリーペーパーに紹介されていたなら、

それは未来への招待だ。



好きの力はすごいと思う。

頭には仲睦まじい自分と近藤洋平の姿が自然に現れるあたり、

話したこともないと言うのに、まったく素晴らしいイマジネーションだ。


  付き合いたい

  デートしたい、な

無意識にシャープペンシルを握る手に力を込めていた。

握力十二の癖に、このまま軽々折ってしまいそうなくらい結衣は彼を想っている。


普通コースではなく服飾コースを選んでいたなら、同じクラスなら、

近藤洋平といつの間にか仲良くなり、今ごろは恋人になれていたかもしれない。

教室で一緒にお弁当を食べたり、授業中に手紙を投げたり毎日が楽しいだろう。

幸せ一杯、友人のプリクラ手帳に登場しているはずだろうに。


もしも時間が戻るなら、入試のあの日に戻り服飾コースを選びたいと素直に願う。

そんなどうでもいい事を考えて、結衣は退屈な先生の話をひたすら聞き流していた。


きちんと勉強をする生徒の背中、セミロングが主流なのは何故。

中学生の頃は髪の毛をおろしていると、女子の先輩に『調子に乗ってる』と、目をつけられるから、

女子生徒は皆二つ括りかサイドポニーにしていた。

今思うと到底理解出来ない。
そんな敬称は欲しくなかったが、結ぶのはオシャレじゃなくて嫌だったので、

結衣はあえて友人らとばらして反抗していたのだが、そんな行動さえ今となれば謎だ。

好んで対抗していたのだから、色んな意味で怖い。

それにしても、学生時代はなぜ『調子に乗っている』というフレーズが流行るのだろうか。


物分かりの悪い生徒の為に、例え話として一発ネタをウケ狙いで織り交ぜても、

肝心の彼女は上の空な上、優等生からは冷たい視線が刺さり、滑った先生も気の毒である。


冬の晴れた空は彩度が柔らかいせいか、つまらない駄洒落を聞いても穏やかな気持ちになれる。

透けるような雲の切れ端は不確かで、ポエマーになるなら、まるで片思いみたいだった。

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