揺らぐ幻影
あれだけ仲良しだと言うのに、市井は近藤に彼女の話をしないのが少し意外だった。
そんなことを裏付けるように、「お前秘密主義だなースパイ」と近藤が笑う。
結衣ならすぐ誰かに彼氏の相談をするし、とてもじゃないが一人では恋心は抱えきれないのにと思った。
「近藤くんが口軽いからだよ」と、低レベルなブラックジョークを言えば、
「そう! 洋平は俺に信頼されてないんだよ」と、市井が付けたし、
ここは高校生らしく、笑いのポイントがないにしろ三人で大袈裟に笑った。
きっと市井は自分を応援してくれているんだと思う。
近藤とくっつけようとしてくれているんだと思う。
振り返れば彼はやたらと『田上さん』と、いつも名前を呼んでいて、
それは隣に居るふわふわとした髪の人への説明のような気がした。
ポジティブに勘違いしよ
思い込んで頑張ろ
後悔なんかしないし! たぶん。
王子様は味方、ひょっとしなくともそんな気がする。
左サイドに流した髪を耳にかけ、もう一度結衣はにっこりと笑った。
はいと手渡されたのはクマの車だ。
偶然のきっかけを作ってくれるのは市井という後援者だと、勝手に感謝することにしてみる。
「じゃあゴシップネタを一つね。洋平って一人しか、それも四ヶ月しか付き合ったことない。
そんで実は女々しい性格隠したいから女子には話し下手」
悪ガキのようなニヤリとした笑い方は、少年そのものだった。
愛美と里緒菜は凄い。
結衣は友人に感服した。
片思いにおいて周りから固めておくことが、基礎中の基礎だったのだと理解した。
男同士の方が説得力があるため、今後とも何かしら近藤は結衣に好意を持ってくれるはずだ。
未来は明るい気がして、甘い甘い目眩がしそう。そのまま倒れてしまえたら――
一体誰が駆け付けてくれるのだろう。
倒れないように、彼は優しく抱きしめてくれるのだろうか。
好きな人の中で一番になりたい。
大好きな人になりたい。
小さな夢を叶えたい。
欲張りになるのが、平和ボケした女子高生だと理解した。