揺らぐ幻影



藍色の空に散らばる星の輝きを打ち消すのは、地上に這った人工的な明かりたちだ。


アルバイトは休みなので早めにお風呂に入り、結衣はとあるプランに向けてスタンバイしていた。

身近に応援してくれている人が居ると一人よりも頑張れるし、

協力してくれる仲間が他に居ると思うと、心の不安が半減する。

愛美と里緒菜、そして今日加わったばかりの市井だ。


自然乾燥が良いとか、タオルで叩くように乾かすとか、女子高生の間には生活の豆知識が散漫している。

ロングヘアは損だと常々結衣は思う。

なぜなら、タオルドライにしろドライヤーにしろ乾かすだけで重労働、腕がだるくなるせいだ。

それでも男の子は髪の毛が長い女の子が好きなのかと、昭和風な発想から切れないでいるのは秘密。


片思いの今の状況は、なんとも現代の病、携帯電話が全てを左右してしまう。

《頭髪検査どうだった? 私OK》という送りっぱなしのメールに返事はない。


真におかしな話だが、一方的に想いを寄せている時は、

メールを送った瞬間から 避けられたのではないかという不安が思考を独占する。

早い話、被害妄想になる。


鳴らない携帯電話との睨めっこにも精魂尽きて、頼りの綱である愛美に泣き言を送り付けた。


《どうしよう返事こない》
《何時に送った?》
《一時間前》
《お風呂かバイトじゃん》
《どうしよ、無視かな》
《後三十分待とう》
《やだー怖い》
《いたたまれなくなったら電話いいから》
《感謝。もう死ぬ》
《いや、余裕で生きてるから笑》


不安なメール内容とは裏腹、結衣の唇には笑みが見てとれた。

というのも、愛美は自信のなさと引き換えに冗談をくれて、いつだって笑顔にしてくれるのだ。

自分と歳が変わらないのに、芯が強くてしっかりした人だと思う。


何を食べて何時間寝たら愛美や里緒菜、市井のように大人になれるのだろうか。

優れた友人と接すると、自分は成長過程に大人スキルを落としているのではないかと疑う節が多々ある欠陥人間の結衣だ。

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