揺らぐ幻影

そのような子供と大人の定義は難しい。

年齢から見て二十歳と言う人もいれば、未成年でも社会で働いている人を指す人もいて、

税金だとか少年法だとか何をもって子供なのか大人なのか分からない。


結衣が思う大人は社会で働いて税金を納める人だ。

一方で成人しているのに子供っぽい中身の人もいるし、未成年だが大人びた人だっている。

だから年齢で分けるのも違うし、高校生でも大人のように立ち振る舞える人も居るので、

結局税金も違う気がした。


そもそも悟りをひらけるほど、達観していない結衣にはよく分からない。


なんとなく、常識があり社会適合性のある精神が大人な人が本物の大人な気がした。

つまり、まだ彼女はてんで子供。むしろ悪質なお子様だ。



ストリングスの効いたポップなメロディーが部屋の中で歌い出す。


慌てて広げた携帯電話には、

《バイトだった。ずっりーもろ田上さんスプレーだった癖に。  F組チェック鬼。パーマ俺かなり弱めで寝癖の域なのに×、髪色とか黒髪レベルなのに×》

ゾンビの絵文字が五つ連続であしらわれた近藤からの受信メールが浮かんだ。


  シカトじゃなかったんだ

安堵のため息をちょうど八秒終えて、ゆっくりと指を動かす。


パーマをどうするのか尋ねると、

再度寝癖と偽り無理やり伸ばすらしく、明日はダサダサで登校するのだと言う。


  似合いそ

メールはカレー作りに似ていると思う。

調理が簡単で洗い物も少ないカレーは、忙しい時や手抜きをしたい時に持ってこいだ。

しかし、煮込み時間や炒め方、隠し味や入れる具材によって、

ひどく手の込んだ凝った料理に変化する謎。


そう、メールだって簡単に指先で適当に弾けるが、こだわりを持つと質が変わる。

だから結衣は簡単なことに一生懸命なのだ。


イミテーションのシャンデリアは蛍光灯の明かりを受け、

暖房に揺れる度にキラキラ輝いている。

瞳に映るのは無垢な光。
恋が始まると、女の子の目は純粋で汚れなんてなくなる不思議。

< 196 / 611 >

この作品をシェア

pagetop