揺らぐ幻影
難しい髪型をさりげなく造れる愛美はオシャレで、ネイルはお任せじゃなく要望をイラストで差し出すし、
服の組み合わせが上手だから同じ品でも気付かないし、字の書き方が既に可愛いし、
女の子目線で憧れる容姿の洗練さだけではなく、性格だって最高で、
良い意味でルーズに砕けた彼女の思考はクラスメートを笑顔にさせる楽しいお喋りばかりだった。
明朗で都会的な魅力ある女の子。
女子高生のサンプルのような女の子。
だから彼氏、どうして愛美と別れたのか。
思い出してみよう。
冷静になれば、いくらだって呈示されていたはずだ。
大塚・近藤・市井の三人を彼氏・愛人・旦那で討論した時の愛美の態度はどうだった?
ケーキバイキングに行った時、愛美を誘えば良かったという結衣に、
里緒菜は『やけ食い?』と言っていたじゃないか。
バレンタインの予行練習をした時の愛美の様子はどんなだった?
毎日を探せば、もっともっとたくさん親友の違和感はちりばめられていた。
破局の予兆は結衣さえしっかりしていたなら、簡単に察知できたはずだ。
初恋に浮かれて女友達の価値をおざなりにしていたのかもしれない。
愚か者、非情な女。
造花の薔薇は枯れやせず、変わらず壁にかけられている。
ぬるい風がエアコンからやんわりと現れる。
例えばこの結衣が恋愛漫画のヒロインだったならば、
読者からの好感度があまりに低すぎて連載は打ち切りにされてしまうかもしれない。
だから主人公らしくあらなくちゃならないのに、ちっとも演じられない。
気丈に振る舞えないし天然ボケでもないし、勇気もないし純粋さもないし、
――そう、どんな主役にも共通する優しさが足りない。
下唇を強く噛み、前歯が赤に食い込んで七秒経った頃に携帯電話が揺れた。
《結衣ちゃん聞いてー、二日連続デートしちゃった! プリ学校で渡すね》
幸せいっぱい奥のメールを読み終えると同時に指先を動かす。
《いいな〜幸せガール笑。奥サマ本物の奥様にならなきゃじゃん? 私が仲人だって紹介して。プリ楽しみ、でも惚れないように注意する笑》
カチカチという音は、会話を作る。
それは携帯電話の正しい使用方法だ。