揺らぐ幻影

  嘘つき

憂鬱でどうしようもない気持ちとは正反対に、メールでは結衣らしい言葉を自然に打っていた。

正直、今、奥が彼氏と連チャンで遊ぼうが月曜にプリクラをくれようがどうでもいいのだ。


今、頭の中を支配しているのは愛美に纏わる事柄のみで、

たまたまクラスメートでたまに話すくらい、GWと夏休みと冬休みに三回遊んだレベルの生徒に構う余裕なんてない。


それに十人居たら全員が『お前は今こそ愛美のことを反省しろ』と言うはずだし、

本人だって現に大親友のことだけを考えている。


けれども、《てゆか来月シフト合わせない? 遊ぼう》という受信文の返事として、

《遊ぼ遊ぼ、いっぱい恋バナしてよね。奥サマのシフト出たら連絡する》なんて、

携帯電話を使ってデタラメの田上結衣を並べている結衣は何なのか。


実に恐ろしい、なぜなら今は愛美のことのみを熟考しながら、

奥に女子高生としてパーフェクトなメールを送信したのだから。


薄いピンク色の塊は現代人の必需品。

これだから携帯電話の扱いが彼女は得意でないのだ。

ただでさえ対面する人間の心境を悟れやしない分際で、記号から何を探れる?

感情や含み、想いやニュアンス、分かったようなつもりでも、

人差し指一本で嘘は突き通せるし、自分を偽れるのなら、

結局、嘘か本当か、本音か建前か、弱音か強気か、裏か表かなど、

愛美の言動に鈍感な子供以下のガキな彼女が汲み取れる訳がない。


だから田上結衣、本当に自分が嫌いになる。

愛美を傷付け、里緒菜に負担をかけ、奥を蔑ろにし、――そんな今、近藤が気になる。

理由は言うまでもないが、彼が結衣に送るメールの内容に偽りはないのかとか、

結衣が愉快だと思った彼のメールを、実は本人は面倒臭いと思いつつ打っていやしないのかとか、

そんな不安をこの期に及んで考え込む。


馬鹿だと思った。

とことん主役には相応しくない女だ。


恋を知って何を得た?

確かに片思いの神様の恩恵を受けた。
可愛くなれたし自信がついたし笑顔で居られた。



  なんか、

ただ、便利な携帯電話だけれど、所持する資格はないのかもしれない。

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