揺らぐ幻影
マイブームは物に当たることではないが、枕を叩くと叩くだけ涙が溢れ、なるほど打出の小槌の法則を体感した。
零れた負の財産はシーツに染みを作るばかりだ。
馬鹿クズ愚図あほ
ビッチ、まじビッチ
心の中でいくら自分を罵倒しようが、それで金銀財宝が現れることはなく、
『ですよねー』とか『今更気付いたのか』とか自分自身を突っ込む言葉ばかりが浮かんだ。
恋をして何を与えられた?
誰にも何もできていやしない。
いいや、皮肉なことだが他者に悲しみや苛立ちを渡した手応えならある。
浮気されていた愛美に嫌がらせみたいに「いいな〜」と、呪文を唱えていたのは結衣だけだ。
そう、それは呪う文で、まさにその通りになったではないか。
多分、理想だった。
きっと、目標だった。
三年も付き合う恋愛はどんなものなのか憧れた。
大人になると、たかが三年でオーバーだとか、一時の恋愛に大袈裟だとか、
とんだ茶番だと呆れるかもしれないけれど、
学生の三年は、二年は、一年は、凄く大きくて一ヶ月でも凄みある歴史で――だって、
世の中の大人たちがお子ちゃまの恋愛は薄っぺらいと苦言するとしても、
一秒が貴重な高校生の一日は濃厚なのだ。
だから、愛美にとっての三年の月日はどうなったのか。
恋人に近藤と結衣を投影すれば、幸せでしかなくて、
だって三年、
結衣は十九歳になり、好きな人も十九歳になる。
お花畑の乙女は結婚へ紡ぐ。
まだ付き合っていないのに、年齢だけで夢を見てしまう。
恋愛には終わりがあるのだろうかと、そんな難しいことはやっぱり賢くない彼女に分からない。
携帯電話の着信メロディーを仲良しの子は個別設定しており、
愛美の彼氏がヒップホップなのかレゲェなのかR&Bなのか結衣には不明だが、
それ系の歌手に似ていたため、
安易に彼を連想させる着信音にしていたけれど、変更した。
人の恋で自分も成長するのだと学んだけれど、別に知らなくて良かったのに。
人として結衣を嫌いになっても、入れ物は変えられない。
綺麗な心が欲しい、そんな夢を望み、もう一度枕を叩いたら、
今度はため息が零れた。