揺らぐ幻影
頼る愛美、頼られる里緒菜。
頼らない愛美、頼られない結衣。
頼られる里緒菜と頼られない結衣。
「……。」
頼る結衣、頼られる愛美、頼られる里緒菜。
これは女子中学生・高校生にありがちな悩み事。
いいや、小学生だってあるのだからティーンを代表する悩みの種だ。
ううん、ハタチななろうがオバサンと呼ばれる頃になろうが、
いくつになっても人は友人が大事なのだから、
これは人生の課題だ。
……なんて過大視するのが学生の特質なのだが、珍しく今回は冗談ではない。
平均的に高校生をしてきた結衣は、くどくなるがピュアガールなんかじゃないため、
それなりに打算的で利己的な部分を持ち合わせている。
だから、エンジェルちゃんのように、
『愛美は苦しんだんだもん、アタシも理解してあげたい、支えてあげたい』と、
三年間を『恋愛 対 愛美』では考えられず、
エセ・エンジェルちゃんの彼女は、『愛美 対 結衣』で捉えてしまい、
『アタシは愛美にとって何? アタシたち友達なのに内緒なんて辛いよ』と、
己の友情に失望してしまう。
これを愚かだと言うなら、教室における関係が見えていない人なのだろうと結衣は思う。
だって人間だから、お坊さんとか聖職者さんみたいに立派じゃないんだから、
十代、人間臭いのだ。
特例として世界遺産に認定されている天使様は除くが、
友人に番号は付けたら駄目だけれど、仲良し順位って本当は皆持っている。
表立ってそんな事を言えば、『なんて性格ブスなんだ!』と軽蔑されるから秘密にしているだけだ。
さておき、絶賛女子高生中の結衣は当然哀れな人物であり、
彼女の中ではいつも『里緒菜<愛美』だった。
今更フォローするつもりはない。
髪が長い少女、イニシャルがY.Tの十五歳、服飾コースの男子が好きな色白の生徒は、
友人に優先度をつけていた、事実だ。
リアリティある世界は綺麗にまとめやしない。
だから馬鹿者。
愛美の中で『結衣<里緒菜』だったのかと思うと虚しい。
枕叩きに飽きたのか、茫然としている結衣の顎を透明の雫が伝う。
この涙は誰への涙?
自分自身じゃないか。